『ウィズ・ティース』ナイン・インチ・ネイルズ レビュー

螺旋を登る

グランジ・ムーブメントとほぼ同時期に隆盛を極めたインダストリアル・ロック(メタル)。インダストリアルはサイコ・スリラーなどの映画と相性が良く、伴奏曲として頻繁に利用されるなど、広く人気を誇っていた。

しかし、それも今は昔。当時雨後のタケノコのように現れたインダスリアル・バンドたちは、ほとんどすべて消えてしまっている。そんな中、現在でも活動をしているバンドの一つがナイン・インチ・ネイルズだ。

ナイン・インチ・ネイルズは、インダストリアル・ムーブメントの最中、その頂点に君臨していた。ナイン・インチ・ネイルズの中心人物トレント・レズナー(正確には、ナイン・インチ・ネイルズは彼のソロプロジェクトに近い)のソングライティングの能力の高さで、数多のインダスリアル・バンドを決定的に引き離していたのだ。

だが、ムーブメントの終焉と時期を同じく、トレント・レズナーはドラッグで身を持ち崩し始め、寡作になる。長いインターバルを置いて発表される作品は、どれもメロディーよりも音響に重きを置き、偏執狂的に重ねられたレイヤーを楽しむような楽曲だった。

それゆえの凄みと深さは備えていて、評論家やファンの評判は良かったが、ナイン・インチ・ネイルズの重要な魅力である「歌」の減少は寂しくもあった。(「当時は歌うことへの自信をなくしていた」と、後にトレント・レズナーはインタビューで答えている)

そんなトレント・レズナーが、希代のメロディーメイカーとしての才能を久しぶりに遺憾なく発揮したアルバムが『ウィズ・ティース』だ。ドラッグを止め、歌への自身と創作意欲を再び取り戻したトレント・レズナーは、聴く者へコミットしようとする強い意思を感じさせるアルバムを作り上げた。

『ウィズ・ティース』の白眉は、リード・シングルにもなった「ザ・ハンド・ザット・フィーズ」。これがもう問答無用のキラーチューン!!一般的に、キャリアを重ねるにつれ、完成度は高まり、音楽性は深まっていくが、一発でノックアウトさせるような即効性のある曲は書けなくなることが多い。それが、この期に及んでこんなキラーチューンが飛び出すなんて、素晴らしいの一言に尽きる。

あまり語られることがないが、何気にボーカリストとしても優秀なトレント・レズナーの歌を存分に堪能できる『ウィズ・ティース』は、ジャンルやムーブメントを越えた、純粋なロックアルバムとして楽しめる、最高の一枚だ。

評点(10点満点)

【8点】ナイン・インチ・ネイルズ入門なら、このアルバムから。

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