『ゾディアック』レビュー

ケイゾク

アメリカ初の劇場型犯罪(脚注)と言われる"ゾディアック事件"。本作は、いまだ未解決であるこの事件を徹底したリサーチで洗い直してフィルムに焼き付けている。

───1969年、カリフォルニア州バレーホでドライブ中のカップルが銃撃を受ける。男性は一命を取り留めたが、女性は9発もの銃弾を浴びて絶命した。後日、新聞社に犯行声明文と暗号が送りつけられる。犯人は、自分をゾディアックと名乗った───

原作は、殺人鬼"ゾディアック"を追ったノンフィクション小説『Zodiac Killer』。筆者のロバート・グレイスミスは、風刺漫画家として勤めていた新聞社を通して、この事件の捜査に実際に関わっていた。それだけにゾディアックに翻弄されるマスメディアと警察の姿が生々しく描かれている。

事件が未解決とはいえゾディアックが図抜けて狡猾だった訳ではない。何せパソコンはおろか FAX すらろくに普及していない時代だから、各管轄での情報共有すらままならない状況でのずさんな捜査が続き、次第に迷宮へと陥ってしまう。その為、犯人と捜査側のスリリングな知恵比べを楽しむタイプの映画ではなく、ゾディアックを追うことで人生の歯車を狂わせていく人々を描いた、渋めの群像劇になっている。

そんな抑制がきいた脚本の『ゾディアック』を監督したのはデビッド・フィンチャーだ。数々の刺激的な作品群を世に送り出してきたフィンチャーだが、本作では凝ったカメラワークや意欲的な演出を封印して実にオーソドックスに撮っている。それでいて2時間37分の長丁場を飽きさせないのだから、フィンチャーの手腕はかなりのものだ。監督として円熟の域に達した感すらある。(フィンチャーの一ファンとしては、たとえ荒削りでも刺激的な作品を求めてしまうのだが…)

"ゾディアック事件"はいまだ未解決の為、カタルシスを得られないままエンディングを迎えるのだが、その代わりに「今も何処かでゾディアックは生きていて、この映画を観たかもしれない」という独特の感慨が味わえる。この映画の本当のエンディングは、"ゾディアック事件"の真相が現実に明らかになるそのときにこそ迎えるのだ。

評点(10点満点)

【6.5点】硬派な映画が好きな人におすすめ。

脚注

劇場型犯罪

劇場型犯罪とは、マスメディアを通して犯行や捜査状況が逐一報道され広く注目を集め、あたかも犯人を主役に見立てた劇であるか如き状況で進行する犯罪のこと。この状況における観客は、もちろん一般大衆である。

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監督:デビッド・フィンチャー
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発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
発売日:2010年04月21日
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