『ボルベール<帰郷>』レビュー

母、帰る

多くの映画ファンから信頼され、常に新作を渇望されるペドロ・アルモドバル監督は、近年に至って巨匠と呼ぶに相応しい風格ある作品群を世に送り出している。そうしたアルモドバル監督が手掛ける女性賛歌三部作の最終章に位置付けられた『ボルベール<帰郷>』は、その締め括りに格好な快作となった。

───失業中の夫と娘のために日々忙しく働いているライムンダは、火事で死んだ母親の亡霊を見た人がいるという噂を耳にする。分かり合うことができないまま亡くなってしまった母…。ある日、ライムンダが帰宅すると娘の様子が変で───

「死」がテーマの一つであり、また暗いエピソードが多いのだけど、全体を包む空気感はおおらかで明るいにものなっている。『ボルベール<帰郷>』は、女性の生命力と逞しさが存分に描かれた、とてもエネルギッシュな映画だ。

そしてそのエネルギーの源は、なんといってもペネロペ・クルスだ。「ペネロペ・クルスは美の絶頂にある」とアルモドバルが絶賛するのも頷ける美しさで、間違いなく本作の白眉である。

見た目の美しさは当然のこと、内から湧き上がるような魅力も溢れている。迷いがなくブレない力強い演技は文句ない素晴らしさで、ペネロペ・クルスをただ綺麗なだけの女優だと思っていた人は面食らう筈だ。『ボルベール<帰郷>』は、ペネロペ・クルスの代表作としてフィルモグラフィーの筆頭を飾ることになるだろう。

そして、そんなペネロペ・クルスをカメラに収めることをペドロ・アルモドバルが実に楽しんでいる。「彼女の胸の谷間は最高だ」と胸の谷間を狙った真上からのショットを使ったり、胸に関する台詞で観客の笑いを誘ったり等々。

また、ペネロペに限らず女性たちが生き生きとフィルムに収まっているのは、ペドロ・アルモドバルが女性に囲まれて過ごした幼少期の経験が生かされているのだろう。「自分が見て感じたことをスクリーンを通して観客に伝える」という単純にして根源的、けれど実に難しいことをペドロ・アルモドバルは本作で成し遂げている。だからこそ『ボルベール<帰郷>』は、心の礎に成り得る感動に満ちているのだ。

評点(10点満点)

【8点】後からじわじわ効いてくる。

余談

本作におけるサスペンスの肝となる部分が、公式サイトや大手映画サイトで随分とネタバレしているのが気になります。たしかにサスペンスの要素は本作の軸ではないのですが…。本作の鑑賞を決めているならネットで公開している予告編などは事前に見ないほうが楽しめますよ。

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