『落下の王国』レビュー

イノセンス

歳を重ね現実と直面した大人は、少なからずあきらめの影を背負うことになる。半分想像の世界に住んでいる子供とは違って、無限の可能性を信じる事が難しくなるからだ。子供は想像力を武器に希望を勝ち取る。子供のそんな純粋さを通して、『落下の王国』は、現在の不幸を言い訳にして未来の幸せをあきらめた大人たちに、いま一度前へ進む勇気を与えてくれる映画だ。

───オレンジ畑で収穫中に樹から落下して腕を骨折した少女アレクサンドリア。映画の撮影中に橋から落下して大怪我を負ったスタントマンのロイ。ロイは入院中の病院で知り合ったアレクサンドリアに自作の物語を聞かせる、ある目的を果たすために───

この手の物語には得てして華奢な美少女がキャスティングされるが、『落下の王国』ではぽっちゃりむくむくしたカティンカ・アンタルーちゃんをヒロインに抜擢している。このカティンカちゃん、驚くほどに邪気が無くまさに天真爛漫。鼻の下をごしごしこするなどの天然の仕草が愛くるしい。大勢のスタッフに囲まれ、カメラが回っている現場とはとても思えない自然体なのだ。演技だけど演技じゃない。これはもう、ちょっとした奇跡だ。

そういったカティンカちゃんの素直な魅力が引き出されているのは、監督・脚本を手掛けたターセムの手腕によるものだろう。カティンカちゃんの反応に合わせて脚本を書き換えたり、ロケ地を選ばせたりなど、彼女の自主性とイマジネーションを尊重したのが功を奏している。

ターセム監督と言えば、その独特の世界観が取りざたされる。前監督作の『ザ・セル』は、その禍々しい世界観でカルト的人気を博した。その映像をターセムと共に創りだした衣装デザイナーの石岡瑛子が本作にも再び参加している。石岡がデザインした衣装は美しくも毒々しい。綺麗だが、蝶ではなく蛾を連想させるのだ。「大人が想定だにしない子供の頭の中」を表現するのに持って来いなデザイナーだ。本作の衣装を気に入った方は、よりゴシックで恐ろしい『ザ・セル』も是非観て欲しい。

───話して。続きを教えて───

少女はまだ見ぬ世界から、青年は忘れていたイノセンスから、それぞれ希望を取り戻す。いま一度前へ。落ちても、また上がればいいのだから。

評点(10点満点)

【7点】テリー・ギリアムの映画が好きな人におすすめしたい。

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