『ミッドナイト・イン・パリ』レビュー

時の巡り合い

「昔はよかった」という懐古趣味が過ぎると、映像や書物でしか知らない「古きよき時代」にまで思いを馳せるようになる。

でも、その時代は本当に「今」よりも素晴らしいのだろうか。

───ハリウッドで成功を収めている脚本家のギルは、底の浅い娯楽作に辟易して、小説家への転身を目指していた。婚約者と旅行で訪れたパリで真夜中の散歩をしていたギルは、1920年代に迷い込んでしまう。そこで、敬愛する作家たちに出会って───

監督・脚本はウディ・アレン。いうまでもなく、現役最高のキャリアを持つ、映画界を代表する監督の一人である。

円熟の極みに達しながらも、今なおみずみずしいウディ・アレンが、数々の芸術家を虜にしてきたパリを舞台に、黄金期への憧れと男女のすれ違いを大人の機微たっぷりに描き出す。

派手なギミックに頼ることなく、会話の積み重ねで物語を紡いでいく手腕は相変わらず鮮やかだ。

監督が70歳を超える高齢で、主人公がロストジェネレーションの作家たちを敬愛していると聞くと、今にも「最近の若者は……」なんて説教が始まりそうだ。

だがしかし、そこはご安心を。『ミッドナイト・イン・パリ』は、そんな虫唾が走るたわ言とは無縁。しっかりと前を向いている。

ただし、1920年代に活躍した小説家・画家・詩人・作曲家が、知ってて当然とばかり次々と登場するため、若干ハードルは高い。もっとも、彼らは物語の触媒なので、知識がなくても本筋は理解できる。

物語に花を添える魅惑的なヒロインは、今やフランスを代表する女優になったマリオン・コティヤールが演じている。映画『NINE』で、そうそうたる共演女優たちの中でひときわ輝いていた彼女が、本作でも鮮烈な印象を残した。

大人になるにつれ忘れてしまうこともあれば、大人になったからこそ分かることもある。『ミッドナイト・イン・パリ』は、 迷える羊である主人公と観客のために、人生の先輩としてウディ・アレンがさらりと置いてくれた道しるべのような素敵な映画であった。

評点(10点満点)

【8点】ダリ~っ!!

ウディ・アレン監督作

ネタバレ感想

(注) ここ以降は本作のネタバレがありますのでご注意ください。

*
*
*
*
*

憧れの1920年代に生きるヒロインのアドリアナは、ベル・エポック期に憧れ。ベル・エポックの時代に生きる芸術家たちは、ルネサンス期に憧れている。そして、そのさまを見た主人公のギルは、まるで夢から醒めたように現代へと戻る。

そこでギルは、アンティークショップで働きながらも今を生きるガブリエルと巡り会う。

示唆に富んでいながらも、驚くほど嫌みがない物語の畳み方だった。

そして、元婚約者には理解されなかった、ギルの「雨のパリを傘を差さずに歩くのが好き」という気持ちにガブリエルが共感した瞬間、私は涙が出た。

「価値観の一致」という紋切り型の文句では語りきれない、もっと琴線に触れる、魂の共鳴のようなものを感じたから。

ややもすれば仰々しくなる要素をさりげなく見せるのが、ウディ・アレンは本当に上手い。

ギルとガブリエルが雨のパリに消えるエンディングは、今まで観た映画の中でも五本の指に入るロマンチックな結末だった。

前の記事:
愚者の行進
次の記事:
これを愛と呼べるか

カテゴリー

サイト内検索

おすすめアイテム

ページの先頭へ戻る