『ぼくを葬る』レビュー

黄昏の中の邂逅

───パリ在住のファッション・フォトグラファーでゲイのロマン(メルヴィル・プポー)は、ガンで余命いくばくもないことを医師から宣告され───

『ぼくを葬る』は、「病に侵され、死に直面した人間の最期までに残された時間」という、古典的な題材を取り上げている。その類の物語は、なにやら教訓めいた内容になったり、お決まりのお涙頂戴ものになるのが常だが、『ぼくを葬る』は、そういった押し付けがましさとは無縁の、もっと静謐な物語である。

「死」という重厚なテーマを掲げているが気負いはなく、むしろプライベートな手触りの映画に仕上げている。ドラマチックな事件は起きないし、大仰な演出もない。死に直面しながらも、主人公の感情が爆発するシーンもほんの僅かしかない。そして、カメラが登場人物たちの心情に絶妙に距離を置くことにより、スクリーンには静けさが漂う。特にラストシークエンスの静かで、儚い美しさは格別だ。

ラストの美しさにはフランソワ・オゾンの手腕だけではなく、主人公のロマンを演じたメルヴィル・プポーの演技力も大きく貢献している。今にも消え入りそうな命の灯火を表現して、観るものに強い余韻を残す。

フランソワ・オゾンは『ぼくを葬る』を「死を描く三部作」の二作目としている(一作目は名作『まぼろし』)。ほとんどすべての芸術家にとって重要な主題であろう「死」を描くとなれば、オゾンのファンなら見逃すわけにはいかない。フランソワ・オゾンの傑作ぞろいのフィルモグラフィーの中でも、オゾンを語る上で欠かせないトリロジーとなるだろう。

評点(10点満点)

【8点】今この瞬間も、我々は緩やかに死に向かっている。

フランソワ・オゾン監督作

余談

ここより下にはネタバレの記載がありますので、必ず観賞後にお読みください。

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ロマンが劇中で決定する最も大きな選択は、ヴァレリア・ブルーニ=テデスキが演じるジャニィとの間に子供をもうけたこと。日本公開時のキャッチコピー「あなたには何が残せますか?」と、予告編の作りは、この選択を大きくクローズアップしたものになっている。

しかし、「子供を残すことこそが人生において最も尊い」といった類のことを言いたい映画ではないだろう。フランソワ・オゾンは、「この映画では、キャラクターに特別なことをさせたいと言う気持ちはなかった」と語っているし、「僕にとってこの映画の核心は、ロマンと祖母のシーン」とも言っている。子供をもうけたことに重点を置いた見方をすると、本作の本質を見誤ることになる気がします。

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