『ドグラ・マグラ』夢野久作 書評

夢の胡蝶を踏み潰す

手に取るのがはばかられるような、米倉斉加年によるカバー絵が、まずは素晴らしい。性器を黒く塗り隠す無粋な行為を、その黒塗りに赤く出版社名を入れることにより、「粋」へと昇華している。内容の面妖さを物語る、実に素敵な装丁だ。

もちろん『ドグラ・マグラ』は、肝心の内容も最高だ。推理小説の体裁をなしてはいるが、複雑怪奇なストーリーは、今ここで荒筋を書くことすら難しい。鶏が先か、卵が先か。蝶の夢を見たのか、蝶が見ている夢なのか。何処までが正気で、何処からが狂気なのか。あらゆるパラドックスを想起させ、混沌が混沌を、謎が謎を生みながら物語りは進んでいく。

終盤に全ての謎が解き明かされるが、何故か解れば解るほど分らなくなる。狐に化かされたような気分になり、躍起になって全貌をつかもうとしていくと、いつしか読者本人が混沌の牢獄に囚われてしまう。推敲に十余年をかけたという話は伊達じゃない。これだけの入り組んだストーリーを破綻無く…いや、何が破綻なのかすら分らない境地にまで磨き上げている。

昭和十年に自費(!)出版された作品だけあって、古い言葉使いが多く見られるが、内容と調和しているため古臭さはなく、むしろ凄みに繋がっている。今なお先鋭であり続ける『ドグラ・マグラ』は、いつまでも朽ちることはないだろう。

何か刺激的なものを求めるならば、『ドグラ・マグラ』を読めばいい。ただし、頭がおかしくなるかもしれないが…。

評点(10点満点)

【10点】名作。言うまでもない。

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